著者は陸上で中国電力に入社したものの、故障して一般社員となり末端サービスセンターまで地位を落として行ったものの、周りの仲間に恵まれ営業マンとして活躍し「伝説の営業マン」と呼ばれるまでになった。箱根駅伝とも青山学院大学とも無縁であったが、常々今の陸上界の体質は古い、自分が学んだビジネスの手法を応用すれば、きっと良い成績が残せると話し合っていた知人から青学監督の要請の相談を受け、退路を絶って挑んだ。プレゼンが評価され、2004年に箱根駅伝から33年間遠ざかっていた青学監督として就任。彼の描いていたプラン通りに、就任11年目の2015年に初優勝に導いた。2017年には3年連続優勝を果たし、大学駅伝の主要3タイトルを取った実績を誇っている。
タイトルに逆転のメソッドとあるのは、著者の逆境を何度も跳ね返した経験から、同じように逆境に苦しむ仲間にヒントとなればとポイントを記してはいるが、分量はさほど多くない。また駅伝特有の話も盛り込まれているが、チームビルディングの観点から本文では割愛した。
まず「箱根駅伝で優勝する」と目標を明確にした。駅伝は体が勝負なので寮で規則正しい生活を送ってもらうと宣言した。最初は部員にはそこまでして目標を達成しようという意志は感じられなかった。3年かかって、この目標にみんなが本気になりチームの基礎が出来上がっていた。著者は3年契約であったのにも関わらず、自分の任期が延長されなくても後任の監督のためにも、この土台作りは重要だと考えて全力で取り組んだ。
3年目に解任の危機があった。そのとき、著者自らがスカウトした特待生1期生の進言もあり1年契約が延長された。4年目の箱根駅伝予選会で次点になった。次点になった監督は予選を通過できなかった各学校の生徒を集めて1つのチームを作って箱根駅伝に参加できる。これまでの監督と違い、著者は実力がある程度ある学生が集まるのだから、学生間の絆を作って学生たちの心を1つにできれば良い成績が残せると考えた。それにはみんなで頑張ろうという目標が必要であり「箱根駅伝で3位を目指す」とい目標が全員による話し合いの結果決まった。結果は、これまでは10位以内に入るのもまれなのに、堂々の4位。
青学での目標管理型強化では、全員共通の年間目標がまずある。そしてひとり一人が月間目標を自主的に決める。そしてどうすれば、その目標が達成できるかの具体的な行動案をこれもまた自主的に列挙する。大会がある場合には大会目標を自主的に決める。決定したらA4用紙にまとめ、著者が目を通すと寮の食堂の壁に貼り出す。定期的にグループミーティングをする。ランダムにグループ分けするのが良いようだ。
成績が伸びない学生には目標が高すぎるという特徴がある。そんなときには言葉を交わしてステップを踏むことを提案する。
組織を作り上げる第一歩は監督である著者と個々の部員、つまり「私とあなた」という一対一の関係から始まった。これがステージ1で青学では規則正しい生活について理解し、実践できるようになる段階。次に部員たちがチームとしてひとまとまりになると、著者がひとまとまりの部員たちを引っ張るという一対多の関係になる。これがステージ2で青学では学年長制度を採り入れた二巡目の時期にあたる。その次がホールディング制とでも言うべき形で、ひとまとまりの部員たちを著者が上からオブラートに包み込む。これがステージ3で、青学では3巡目に入る頃。そして最後に指導者である著者が後ろにまわって部員たちを包む込むように指導する。これがステージ4で、まさに成熟期である。
ステージ4まで組織が成熟しらからこそ、部員たちの自主性が意味を持ってくるし、部員が抽象論で議論したり、キーワードを理解できたりする。
スカウトも非常に大事だ。青学カラーに合わない学生を好成績故に入れたことがあるが、チームの和が乱れた。学校のカラーに合った人材をスカウトすべきである。
キャプテンは部員たちが決める。学年長制度を設けているので、大抵はその経験者がなる場合が多い。著者が指名したことはほとんどない。著者がキャプテンに求めている資質は「男気」である。一生に一度限りのチームで部員たちに「あの人のためにがんばろう」「あの人なら付いていける」と思わせるキャプテンにならなければならない。男気というのはある種の情であるから理論的に説明するのは難しいが、「ガキ大将的な気質」と言い換えることができるかもしれない。ガキ大将のように子分を従えるような強さと包容力を持った者でないと、なかなか人を動かすリーダー役は務まらないに違いない。著者自身、自分にもガキ大将的な気質があったと語っている。
学校にもよるだろうが、青学の学生たちに対するには、指導者がきちんとした指導理念を持ち、理論武装したうえで対応しないと言うことを聞いてくれないし、場合によっては見下されかねない。逆に言えば、きとんとした指導理念を持って理屈を説けば、学生たちは付いて来る。ただ表面的に納得したふりをする者もいるので、指導者はそのところを見逃してはならない。目的を達成するにもいろいろなやり方があるわけで、何故このやり方を選ぶのかを説明しないといけない。
駅伝の選手に選ばれなかった部員に対して、何故君ではなく彼を選んだか、どうすれば次に選ばれるようになるかというヒントを与えるようにしている。なぜそこまでするかというと、こうした経験を自分が人間として成長するきっかけにしてほしいからである。