著者は、ハーバード・ビジネススクール教授で、病院を中心に幅広く研究され、組織学習とリーダーシップに関する論文を数多く出されています。論文を書く人らしく、他の研究者の引用が多くあり、論文のように巻末にたくさんの引用一覧が記載されています。
副題の「チーミング」という言葉を、最初、プロジェクトチームのような固定化されていないチームに対しての「動詞」として使っていましたが、後半では表題にあるような、『学習力』と『実行力』を伴うチーム創りを指す時にも使っています。
「チーミング」が大成功した例として、「チリで起きた鉱山事故の救出劇」を挙げていましたが、本の先では、「ルーチン業務」「複雑な業務」「イノベーションの業務」いずれに対しても「チーミング」は大変有効であると述べています。
「学習」は「失敗」から学ぶことで一番効果があります。また複雑な業務において大きなミスを犯す原因は小さなミスの積み重なねにあるということです。つまり大事になるのが、失敗を報告しやすい環境なのです。リーダーも含めてチーム全員が何でも言い合える環境を醸成しておく必要があります。これを著者は「心理的に安全な場」という言葉を使っています。
ただし、何でも試していい、どんな言葉でも発していいという分けではありません。きちんと、ここまでの範囲でというのを明確にして、その範囲を超えるとペナルティを負うようにして置かなければなりません。
「チーミング」は残念ながら自然には発生しない。適切なリーダーシップが大事であると述べられています。
4つの病院が新しい技術の導入を試み、結果どうなったかの例がありました。結果、病院の規模、リーダーの肩書に関係なく、適切なリーダーシップを発揮できた2つの病院だけが試みに成功しています。
「心理的な安全な場」とは互いに信頼し合い尊敬し合うことを特徴としますが、掛け声だけでは生み出すことができません、リーダーの率先垂範が大事です。特に出来事に対するリーダーの反応に大きく影響されます。メンバーの支えとなり、助言を惜しみなく与え、疑問や挑戦に対して身構えなければ、このチームは安全だとメンバーは感じるようになると述べています。メンバーを尊敬していることを、とりわけメンバーが持っている専門知識やスキルを認めることによって、はっきり伝えなければなりません。素直に話したりミスを報告したりすることを大いに促す必要があるとも述べています。
整理すると
- 直接話のできる、親しみやすい人になる
- 現在持っている知識の限界を認める
- 自分も良く間違うことを積極的に話す
- 参加を促す
- 失敗は学習する機会であることを強調する
- 具体的な言葉を使う
- 境界を設ける
- 境界を超えたことについてメンバーに責任を負わせる
「チーム学習」について、
ルーチン業務ではトヨタの「改善」が有名です。本書では、それ以外の例として、マットレス会社を挙げました。ここではまず「朝起きて、さあ仕事にいこう!と誰もが思うような、そんな会社をみんなでつくりたい」「他者の人たちに、一緒に仕事がしたいと思ってもらえる、そんな会社にもしたい」というビジョンを社員に示しました。そしてチームづくりのプログラムに参加してもらうことにしました。さらに「無駄ゼロ」を目標にしました。これはチームづくりのプログラムによって生まれる熱意を数値化できるので有効な目標でありました。人々は会社の新たな「学習」の文化を受け容れて、社員同士の運命はつながり合っているという考えを重視するようになりました。共同作業には五つのレベルが設けられ、チーミングの目的に応じて要点が示されました。メンバーは自分はもう次のレベルに進めると思えたら、工場の首脳部に正式なプレゼンテーションを行いました。体系的なアプローチが功を奏し、意識は高められ、スキルを伸ばし、そして劇的に業績が改善しました。
複雑な業務では、ある子ども病院の取り組みを紹介しています。複雑な業務では失敗する可能性にありとあらゆるところで直面します。リーダーは常に存在するリスクというチャレンジに向き合うことになります。この状況でのチーミングは、弱点を認識し、失敗を避ける計画をブレーンストーミングで話し合い、失敗した場合にそれを分析するための戦略になります。リーダーはそうした状況でのチーミングを促進・支援するのにきわめて重要な役割を果たします。待ち受けるチャレンジにはマニュアルもなければ手本とすべき成功例もありませんでした。問題を見つけて解決するためのチーミングには、さまざまな視点から見る鋭い観察力と、時宜に適った率直なコミュニケーション、それにすばやい意思決定が求められました。リーダーのチャレンジは自己組織化学習システムをつくって新たな領域を開拓することでした。リーダーにはある目標がありました。入院している子どもたちを絶対に危険な目に合わせないことでした。おそらく誰もが賛同する目標であるために、無謀な目標ではありませんでした。はじめのうちは、みんな身構えていたので、思うようにいかなかったようです。複雑な業務では、ただ一人のミスではなく、多くの人が関わるシステムの故障であることが多いのです。複雑な業務でチーミングが行われると、適切なリーダーシップ、人間関係についての意識、規律に加えて、予測、問題解決、診断、システムリスクを軽減する力に影響がもたらされ、重大な失敗を避けられるようになります。複雑な業務においてチームをリードすることは、説得力ある目標を伝えて、すぐには答えが見つからなくても行動を起こすよう人々を促すことからはじまります。そうした状況でチーミングを促し、支援する場合、リーダーは共同調査員を探すことになります。それは、積極的に協力して、それまでずっと解決されてこなかった問題を探し出し、確認し、解決しようとしてくれる人のことです。未知のものが数多くあっても旅に出てくれる人でもあります。
患者の安全性運営委員会には意図的に多様な人が集められました。最初統計データを見せましたがみんな反対しました。そこで「オーケー、データはこの病院には当てはまらないかもしれない」と理解を示した上で、こう質問しました。「実際にどんな経験をしたか教えてもらえる?すべてが、こうあってほしいと思うのと同じくらい安全だったかしら?」それは人々の経験を尊重するものであり、また向上心を促すものでもありました。リーダーは力を合わせて「システムを変える方法を考える」よう、全員の支援を求めたのです。
「非難されることのない報告」という、医療事件を報告するための新システムを導入しました。「要因は何だったか。どんなことがあればその出来事が将来起きるのを防げるか」といった問いによって、報告者は事故について深く省察し、十分に説明することを、徹底して求められました。新たな言葉を取り入れ、たとえば「調査」の代わりに「研究」や「考察」を使うように人々を促しました。「事故」は誤りを犯した人ではなくシステムの欠陥によって起きるのだというリーダーの考え方がありました。また「責任」は「説明する責任がある」という言葉に置き換えられました。リーダーが人々を集団的学習の旅にうまく参加させることができたら、組織のトップではデザインされたことのない活動が行われ始めます。アイデアがどんどん沸き起こり、活動が定着して広がるようにもなります。
イノベーションの業務では、探求と試みをどんどん行える環境を生み出すためにリーダーシップが必要になります。そしてチーミングを行わなければ、新たなアイデアを提案し、実行可能な選択肢を選び出し、試して磨きをかけ、最終的にかつてない有用な新しい可能性を生み出すことはできません。今日行われるイノベーションはほとんどの場合、チームスポーツです。イノベーションが生まれるのは新たなアイデアや新たな解決策が専門領域の交わるところで現れるときであり、それはチーミングを通して起きます。ここではデザイン・コンサルティング会社を例に紹介します。イノベーションで難しいのは、斬新なアイデアが浮かばないことではなく、新しいアイデアを古い組織に受け容れてもらうことだといいます。特定の新製品をデザインしてほしいというリクエストに単に対応するだけでなく、革新すべき製品分野を企業が見きわめるもを手伝う必要性を感じ、「世の中の動きを把握し、それに応じて革新する」という「フェーズ・ゼロ」と名付けたサービスに取り組みました。チームのアイデアは実行可能な独創性に富むものでしたが、クライアントがそのアイデアに基づいた行動をとりませんでした。この会社では、職務の枠を越えて、多くの人がチームを組み何度も招集されます。彼らは活気あふれる、きわめて混乱した、しかし驚くほど統制のとれたチーミング・プロセスの中で仕事をします。プロセスにおいては、する必要のある多くに仕事の詳細について事前に指示は受けることはできませんが、プロセスの大まかな流れは全員にとって明確であり、また良く理解されています。相互交流に重点を置いています。エンドユーザーの世界に最も関心を持っています。4つの明確な段階があります。「概念の創出」「概念の開発」「詳細の設計」「製造の連絡」。いずれにおいてもチーミングが欠かせません。この会社は心理的安全の文化をずっと育ててきました。クライアントを巻き込んでいなかったから失敗したのでした。